手っ取り早くTypstに入門する(VS Code + Tinymist Typst)

Microsoft OfficeのWordは、その圧倒的シェアのため、文書を作成したいときに誰かとの共同作業が容易であるという利点があります。ある程度細かいところまで見た目などを制御できるので、普通の人が普通の文書を作る上ではWordが最適解だと私も思います。

逆にどういう場合だと、Wordでの文書作成体験に不満が生じるでしょうか。

一つは文書のバージョン管理などをしたいときです。Wordには「変更履歴」や「文書の比較」があり、私も頻繁に使いますが、テキストの情報と書式の情報が混在しているのでうまく扱わないと意図した動きにならないことがあります。なんとなく不安定な挙動をされると、認知負荷が上がって精神衛生上も良くいので、できれば文書はプレーンテキストファイルで管理して、自分の好きなツールでバージョン管理なり差分チェックなりをさせてくれ、と思うわけです。でも、いくらプレーンテキストが良いとは言え、Markdownだけでは印刷物を作りたいときに見た目の制御で困ります。

もう一つは数式を多用する人です。もちろんWordにも「数式」を挿入する機能がありますが、やはり挙動が不安定な印象があります。あとこれは主観になりますが、Wordで作成した数式は見栄えもあまりよくありません。極論で言えば、理系の人間はこれまで、きれいな数式を書きたいがために、LaTeXという組版システムを使ってきました。しかし、LaTeXはとても柔軟で強力なツールですが、環境の構築や記述の難易度が高く、敷居の高いものでした。

プレーンテキストファイルで文書の内容と書式を管理できて、きれいな数式もかけて、LaTeXよりも導入と運用の敷居が低いツール、それが今回の本題であるTypstです。Typstの細かい解説は他に譲るとして、この記事では手っ取り早くTypstを導入して、すぐにPDFの文書を作成できる状態を目指します。細かい説明は抜きに、Wordで作成するようなビジネス文書をTypstで作成するサンプルのコードを示します。

1. Typstの導入

以下はWindows 11 (24H2) で確認した手順です(Macなど他の環境でもうまく行ったら、是非教えてください)。

1-1. Visual Studio Code (VS Code) のインストール

VS codeをインストール済みであれば以下の手順はskipしてください。

  1. まず、Visual Studio Code (以下「VS Code」という。)をインストールします。公式サイト (https://code.visualstudio.com/download) から適切なインストーラーをダウンロードしてインストールします。VS CodeはMicrosoftが開発しているオープンソースのソースコードエディタです。Typstに限らず、あらゆる種類のソースコードを作成したり運用したりするのに適しており、愛用者が多いです。
  2. VS Codeを起動し、アクティビティ バー(左側に縦に並ぶアイコンたち)の中から、「拡張機能」のアイコン(英語では “Extension“; 四角形4つのアイコン)を押すと、マーケットプレイスから検索してVS Codeの拡張機能をインストールすることができます (公式のドキュメントの説明: https://code.visualstudio.com/docs/editor/extension-marketplace)。
  3. Typstを導入する場合に限らず、VS Codeをインストールした場合、まず初めにVS Code自体を日本語化すると良いでしょう。日本語化するには、Microsoftが公式に出している「Japanese Language Pack for Visual Studio Code」をインストールします (https://marketplace.visualstudio.com/items?itemName=MS-CEINTL.vscode-language-pack-ja)。

1-2. Tinymist Typst

  1. VS Codeの拡張機能「Tinymist Typst」をインストールします。この記事を書いた時点では、バージョン0.13.8でした。必要な手順は以上で終わりです。

2. Typstで文書を作成してみる

①VS Code自体の操作方法は割愛します。文書を作成していくフォルダーを用意して、そのフォルダーをVS Codeで開いて、そこを起点にファイルを作っていきます。ここでは「test_typst」という作業用のフォルダーを作成して、開いています。

②まず拡張子「.typ」のテキストファイルを作成します。ここでは「test.typ」という名前のファイルを作成しました。

③「test.typ」の内容として、エディターに以下のTypstのコードを貼り付けてください。

④そして、右上の「Typst Preview: Preview Opened File (Ctrl + K V)」(縦に分割した四角形に虫眼鏡のアイコン)をクリックすると、コードを解釈して文書のプレビューができます。この状態で、コードを編集すると、プレビューも更新されます。

⑤「Export PDF」を押すと、「test.typ」を作ったフォルダの中に、「test.pdf」が作成されます。

⑥VS Codeに「vscode-pdf」という拡張機能を入れておけば、VS Code上でPDFの内容を確認することも可能です(これがないと、VS CodeはPDFファイルを無理やりテキストファイルとして開こうとするため文字化けして表示されます)。

まとめ

VS Codeに拡張機能「Tinymist Typst」をインストールするだけで、すぐにTypstを使いはじめる(Typstのコードを書いて、文書の出力プレビューする、PDFを出力する)ことができました。LaTeXを導入した経験のある人からすれば、Typstは驚きの導入コストの低さだと思います。

サンプルのコードのように、フォントの設定や段落などを少し設定して見た目を調整してあげる必要はありますが、Wordで作成したのと遜色ない見た目のビジネス文書が簡単に作成できました。また、今回のサンプルでは使用していませんが、数式も簡単に挿入できますし、コードの記述で作図もできます(CeTZパッケージなどを使用)。

「試しにTypstを書いてみる」ことのハードルがこれだけ低いわけですので、テキストファイルでデータを管理できることに喜びや安心感を得られる人も、そうでない人も、是非文書作成ツールとしてTypstを試してみてはいかがでしょうか。

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